症例:60代女性
主訴:労作時呼吸困難
現病歴:
12年前より、特に春になると、犬やホコリへの暴露後に、鼻炎や目のかゆみ、喘鳴が出現するようになった
喘息と季節性/環境性アレルギーと診断され、抗アレルギー薬が処方された
11年前には、腹部CTを撮影した際に、偶然、肺底部のモザイク状のすりガラス陰影を指摘された
6年前には、軽度の労作時呼吸困難と、喘鳴を時々自覚するようになった
呼吸機能検査で、肺活量と1秒率の低下を指摘され(%FVC 60%、FEV1% 0.65)、吸入薬を処方された
5年半前には、4階分の階段を上がるだけで酸素飽和度の低下がみられた(SpO2 90% 室内気)
胸部X線検査、及び血液検査では特記すべき異常は認められなかった
(電解質、腎機能、白血球、ヘモグロビン、血小板、抗核抗体、抗好中球細胞質抗体 は問題なし)
胸部CT検査では、両肺にモザイク状のすりガラス陰影、及び2-4mm大の多数の小結節を認めた
(気管支拡張の所見はなかった)
5年前の時点でも、労作時呼吸困難が持続しており、心臓超音波検査では異常は認められなかった
その後、喘息としての吸入療法が継続されたが、労作時の呼吸困難は持続していた
半年前の胸部CTでは、以前と比較して概ね変化はなかったが、右上葉の小結節は最大径6mm大となっていた
また、FDG-PET検査が施行されたが、肺には異常な集積は認めなかった
精査目的に、当院に紹介となった
既往歴:甲状腺機能低下症、肥満、脂質異常症、高血圧症、境界型糖尿病、腎結石(シュウ酸Ca) など
内服薬:アスピリン、アムロジピン、ロサルタン、アテノロール、アトルバスタチン、レボチロキシン、
ロラタジン、モンテルカスト、アトバコン
他に、フルチカゾン・ウメクリジニウム・ビランテロール吸入薬の使用あり
職業歴:教育者
アスベスト、化学薬品などの暴露なし
ペット飼育なし
喫煙歴なし(受動喫煙もなし)
アレルギー性疾患、免疫疾患、肺疾患などの家族歴はなし
身体所見:発熱なし、SpO2 90%(室内気) 2階分の階段を上った後のSpO2 85%(室内気)
クッシング様の外観あり
呼吸音の異常なし ばち指や浮腫なし
関節や皮膚、爪に異常所見なし
血液検査:白血球、ヘモグロビン、血小板、赤血球沈降速度、CK は特記すべき異常なし
IgE高値(1500 IU/mL)
TSH軽度高値(8 μIU/mL)
抗核抗体高値(5120倍、homogeneous + specklesパターン)
抗細胞質抗体高値(1280倍、filamentous + granularパターン)
抗好中球細胞質抗体、筋炎抗体パネル検査などの自己抗体検査はすべて陰性
CT検査:びまん性に両肺にモザイク状のすりガラス陰影、及び多数の肺結節あり(最大径6mm右上葉)
(線維化や気管支拡張、リンパ節腫脹は認めず)
呼吸機能検査:肺活量と1秒率の低下あり(%FVC 60%、FEV1% 0.65 6年前と概ね変化なし)
何らかの自己免疫機序に基づく間質性肺炎を念頭に経口プレドニゾロンが開始となった
その後も、労作時呼吸困難の自覚は変化がなかった
呼気相でのCT検査で、air trappingの所見を認めた
これまでの経過などから、ある疾患を念頭に肺生検を施行(右上葉の6mm大の結節)
→ 病理検査では、多発する典型的なカルチノイド腫瘍とtumorletの所見を認めた
(免疫組織化学染色で、synaptophysin及びchromogranin A陽性であった)
診断:びまん性特発性肺神経内分泌細胞過形成
(DIPNECH:diffuse idiopathic pulmonary neuroendocrine cell hyperplasia)
ポイント:
・DIPNECHは、肺の内分泌細胞が増殖するまれな疾患である
・中年女性に好発し、喫煙とは関連が見られない
・典型的な症状は、咳嗽、呼吸困難であるが、約半数は無症状で偶発的に発見される
・低悪性度の内分泌腫瘍に対する治療戦略が管理の参考にされている
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