6番目 パーキンソン病

①L-dopa(レボドパ)
最も強力なパーキンソン病治療薬です。1970年代のこの薬の登場は、パーキンソン病の治療に画期的な進歩をもたらしました。それまで発症後5年で寝たきりだったのが、10年経っても歩けるようになりました。ところがレボドパの服薬期間が長くなると、さまざまな問題が起こります。最大の問題は薬効の変動です。レボドパの作用時間は短いため、内服すると動けるようになりますが、2時間もすると効果が切れて急に動けなくなります。これを英語で擦り切れるという意味のウェアリングオフ(wearing-off)現象と呼びます。効果が切れて動けなくなるのを恐れてレボドパを過剰に服薬すると、今度は身体が勝手に動くレボドパ誘発性の 不随意運動 (ジスキネジア)が出現します。
パーキンソン病の脳内で不足するのはドパミンです。脳内のドパミンを補充すれば元のように動けるようになりますが、ドパミンを服薬しても血液中から脳内に入りません。そこでドパミンの前駆体であるDOPAを薬として服用します。DOPAにはL型とR型がありますが、このうちL型だけが脳内に入るので、L-dopa(レボドパ)が使われます。しかし消化管や血液中にはDOPAをドパミンにするドパ脱炭酸酵素(DDC)が豊富にあるため、レボドパだけ服薬する とDDCにより分解されてしまいます。そこで1980年以降わが国ではレボドパと末梢性DDC阻害薬との合剤(商品名:イーシードパール、マドパー、ネオドパゾール、メネシット、ネオトパストンなど)が一般的に用いられています。なお、レボドパは血液中のCOMTという酵素によっても分解されます。そこで末梢性COMT阻害薬であるエンタカポン(商品名:コムタン)を同時に服薬することも行われています。レボドパとDDC阻害薬とCOMT阻害薬の合剤(商品名:スタレボ)も使われます。

②ドパミンアゴニスト
レボドパの副作用を克服するために開発されたのが、作用時間の長いドパミン受容体刺激薬(アゴニスト)です。我が国では現在8種類のドパミンアゴニストが使用可能です。ドパミンアゴニストは長くのみ続けても、薬効の変動( ウェアリングオフ現象 )や ジスキネジア が生じにくいことがわかっています。しかしレボドパより効くのに時間がかかり、また吐き気や 幻覚 ・ 妄想 などの副作用に注意が必要です。薬効の変動やジスキネジアの起きやすい若年の症例は、なるべくドパミンアゴニストで治療を開始した方が良いでしょう。一方高齢の方は、最初からレボドパで治療開始して良いでしょう。効果は確実ですし、高齢者では薬効の変動(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアが起きにくいと言われています。8種類のドパミンアゴニストはそれぞれ特徴があるので、使い分けが必要です。詳しくは専門の先生と相談してください。また、ペルゴリド(商品名:ペルマックス)やカベルゴリン(商品名:カバサール)で心臓弁膜症や肺線維症が起きることがあります。そこで、これらの薬を使用するときは心エコー検査等で定期的に心臓の弁をチェックすることになっています。一方、プラミペキソール(商品名:ビ・シフロール、ミラペックス)やロピニロール(商品名:レキップ)、貼付薬のロチゴチン(商品名:ニュープロパッチ)、自己注射薬のアポモルヒネ(商品名:アポカイン)では、運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」が起こることがあるため、服薬中は運転しないよう警告が出されています。

③抗コリン薬
パーキンソン病の治療薬として最初に使われた薬です。トリヘキシフェニジール(商品名:アーテン)が有名です。パーキンソン病ではドパミンの減少に伴って、もうひとつの神経伝達物質であるアセチルコリンが相対的に過剰になります。その作用を減らす目的で使われます。なお、認知症の原因となるアルツハイマー病では、最初に脳内のアセチルコリンが減少します。したがって高齢者が抗コリン薬をのむと、物忘れや幻覚・妄想などアルツハイマー病に似た症状が出ることがあるので、70歳以上では原則として使わないようにします。

④塩酸アマンタジン
塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)は元々抗ウイルス薬として開発され、A型インフルエンザの治療薬としても使われています。線条体でのドパミン放出を促す働きがあるほか、ジスキネジアを抑制する効果が知られています。ただし全ての患者さんに有効なわけではなく、また副作用として幻覚や妄想が出やすいので注意が必要です。特に腎機能低下のある方では用量を減らす必要があります。

⑤ゾニサミド
この薬は、既にてんかんの治療薬として使われていましたが、2009年にパーキンソン病に使うことが認められました。パーキンソン病に使う薬は商品名トレリーフで、1錠が25mgで、2錠まで使います。一方、てんかん予防に使うのは商品名がエクセグランで、1錠100mgです。間違えないようにしましょう。どうしてパーキンソン症状を改善するのか、その理由は完全には解明されていません。レボドパとの併用で使う薬で、ウエアリングオフや振戦の残る時に特に有効です。作用時間は長いので、1日1回の服薬で十分です。

⑥アデノシン受容体拮抗薬
日本で開発された新しい薬(イストラデフィリン:商品名ノウリアスト)で、ウェアリングオフを改善します。ウェアリングオフを軽くする作用がありL-dopaと併用します。ウェアリングオフの改善以外の作用については、まだ充分に解っていません。

⑦MAO-B阻害薬
MAO-B阻害薬である塩酸セレギリン(商品名:エフピー)はMAOの活性を低下させてドパミンの分解を抑制します。これによりレボドパの効果は延長しますが、ジスキネジアは悪化することがあります。MAO-B阻害薬はノルエピネフリンやセロトニンなど他の神経伝達物資の分解も抑制するので、服薬すると意欲が出て気分が明るくなる傾向があります。その一方で、幻覚・妄想や夜間不眠、血圧などに注意が必要です。作用時間は非常に長いので、1日1回(朝)か2回(朝と昼)の服薬で十分です。

⑧カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害薬
吸収されたレボドパは血液に入り、血液脳関門を通って脳に入ります。血液の中にはドパ脱炭酸酵素(DDC)やCOMTという酵素があり、レボドパを分解します。現在使われているレボドパ製剤の多くは、レボドパと末梢性DDC阻害薬の合剤です。このため、レボドパはCOMTによって分解されます。末梢性COMT阻害薬のエンタカポン(商品名:コムタン)はそれを防いでレボドパが脳内にたくさん入るようにする薬です。コムタンの効果は短いので、毎回レボドパと同時に服薬する必要があります。

⑨ドロキシドパ
長期間経過したパーキンソン病で問題になる症状のひとつに、「足のすくみ」があります。これにはもう一つの神経伝達物質であるノルエピネフリンの関与が示唆されています。ノルエピネフリンはβ水酸化酵素によってドパミンから合成されるため、ドパミンが減るとやがて不足します。前駆体であるドロキシドパ(商品名:ドプス)はそれを補うために使われます。ただし全ての患者さんに有効なわけではありません。このほか意欲低下や立ちくらみを改善する効果が知られています。ドロキシドパは日本で開発された薬で、欧米では立ちくらみの治療薬として承認されています。

source

powered by Auto Youtube Summarize

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事